第173回研究会報告
「エネルギー関連技術としての熱と磁気」
日時:2010年8月3日(火) 13:15~16:50
場所:中央大学駿河台記念館
参加者:23名
石油等の枯渇および地球温暖化を抑制するため、化石資源を代替するエネルギー源の開拓が必要とされている。本研究会では磁気と熱の協調に着目し、エネルギー・エコロジーの観点から注目される磁気冷凍、熱電変換ならびに超伝導材料について、第一線でご活躍中の5名の先生方から最近のトピックスなどをご紹介いただいた。質疑応答は活発であり、また日本磁気学会会員でない方の参加も目立ち、学会外からのこのテーマへの期待も大きいと感じられた。以下に講演の概略を紹介する。
講演内容:
- 「Fe系室温磁気冷凍材料のスピン揺らぎとメタ磁性転移制御」
藤田麻哉(東北大)
室温かつ永久磁石程度の磁界で動作する実用的なFe系磁気冷凍材料についてご講演をいただいた。磁気一次相転移を示す材料系、特に遍歴電子メタ磁性転移を示すLa(FexSi1-x)13について、その相転移やスピン揺らぎの基礎および磁気熱量効果との関連について解説され、さらに水素添加による転移温度の向上や、Laを他の希土類で置換することによるヒステリシス損失の低減などの成果が紹介された。すでに従来材料を超える冷凍能力も実証されており、安価で安全な磁気冷凍機実現に向けた展開が期待される。
- 「CuNiを用いた金属接合での巨大ペルチェ効果」
福島章雄(産総研)
膜面垂直に電流を流すCPP (Current Perpendicular to Plane) 型金属接合でのペルチェ効果についてご講演をいただいた。電流-抵抗曲線のシフト量より求めたペルチェ係数はバルク値よりも大きくなり、これを説明するためのいくつかのモデルについて解説された。さらにCuNi / Au界面を有するCPP接合のペルチェ係数はバルクの40倍もの巨大な値を示すことが分かり、3次元アトムプローブ解析により明らかとなったCuNi層内部の組成変調された柱状構造との関係について紹介された。これらの知見が将来的には各種電子デバイスにおける熱流制御へとフィードバックされることも期待される。
- 「強磁性金属におけるスピンゼーベック効果」
齋藤英治(東北大)
「スピンゼーベック効果」すなわち強磁性体における温度勾配誘起によるスピン圧生成現象の検出実験およびその物理的理解の現状について分かり易く講演を頂いた。特に、電気伝導性を有しないガーネット型酸化物強磁性体においても、Ptを検出電極とし、これの逆スピンホール効果を利用することで、起電力に温度差依存性が認められたことは、スピン圧発生の直接的な実証実験として興味深いものであった。本技術の応用により、純スピン流を用いた新規な電子デバイスの創出が期待される。
- 「熱電材料の磁場効果」
小峰啓史(茨城大)
LNG気化時の廃熱を有効利用するため磁場効果・形状効果を考慮した熱電材料の創製について講演いただいた。ゼーベック係数の磁場依存性は散乱因子に依存することから、理論的には、音響変形ポテンシャル散乱が支配的な材料において、ゼーベック係数の増加が期待されることが紹介された。また、磁場効果は材料形状にも依存することから、これらの特長を活かすため、異方性形状を有するビスマスワイヤアレイ熱電素子を作製した結果、ゼーベック係数の増加ならびに磁気抵抗の減少が実際に認められ、熱電材料を用いた低熱源からのエネルギー回収の可能性が示唆された。
- 「機能性層状化合物の磁場配向と磁場配向のための磁気異方性制御技術 ~熱電および超伝導材料~」
堀井滋(高知工科大)
弱磁性物質を対象とした強磁場利用による結晶配向技術について講演を頂いた。具体的には、強磁場印加と電気泳動法を併用した結晶配向による異方性組織を有するスタック型の熱電変換デバイスの作製や、RE2Ba4Cu7O15-y (RE: 希土類)系超伝導材料においては、静磁場ならびに回転変調磁場を利用することで、三軸全てに対して結晶配向が可能なことが紹介された。後者は、結晶配向度制御により臨界電流密度(Jc)の向上が十分に期待されることから、超伝導材料の実用化に向けて重要な技術となるものと考えられる。